鉄道電気設備の保守は時間基準で実施している。
設備使用開始から経過した時間を基準に予防保全を実施する時間基準保全(TBM: Time Based Maintenance)は、一定期間ごとに設備を構成する部品をすべて交換することで、設備そのものの故障率を軽減させる保全方法である。設備が故障する確率が下がる一方、まだ故障していない部品についても交換対象となるため、材料費や人件費がかさむ傾向がある。
近年、半導体センサの価格がどんどん下がり、5Gの実用化も目前に迫っており、新しい予防保全の方法として状態監視保全(CBM: Condition Based Maintenance)が注目されている。これは機器を構成する部品にセンサを取り付け、故障しそうな部品のみメンテナンスを実施する方法である。TBMと比べて、壊れそうな部品のみ対応を行うため、材料費や人件費を大幅に削減できる「次世代メンテナンス」として期待されている。
少子高齢化がますます進み、鉄道を利用されるお客さまが頭打ちになる中、CBMのような新しい保全方法を積極的に導入することが大切である。これにより、保守コストの削減が期待でき、営業利益に貢献できると考えられる。
現在の鉄道電気設備の保全は、TBMが主流
鉄道の電気設備を保守するため、一定期間ごとの点検(定期点検)と、設備を使用開始してから一定期間経過するごとに、設備を構成する部品を無条件に新しいものに更新する(定期修繕)を実施している鉄道会社がほとんどかと思う。
一定期間ごとの点検については、
- 鉄道に関する技術上の基準を定める省令
- 施設及び車両の定期検査に関する告示
などの、いわゆる実施基準によって定められているが、設備を構成する部品等を定期的に交換することを定める法令はない。現在主流の保全方法である、設備の使用開始から経過した時間に応じて定期的に部品を交換する手法である時間基準保全(TBM)が適当かどうかは、常に検討しなければいけない問題なのだ。
時間基準保全(TBM)とは
時間基準保全はTBM: Time Based Maintenance とも呼ばれ、設備を導入し使用開始してから一定時間経過するごとに、設備を構成する部品や装置を新しいものに更新していく保全手法のことを言う。詳しい解説についてはキーエンスジャパンの用語解説のページが参考になる。
故障率曲線(バスタブ曲線)により、設備を使用開始してからどれくらい時間が経過すると故障率が上昇するのかが統計学的に明らかになったことから、故障が発生する前に部品を交換できるようになり、設備の故障率の低下や耐用年数の向上が図れるようになった。
しかし、TBMに基づく保全方法は、まだ故障していない部品や装置も新しいものに交換するため、材料費や人件費等のコストが必要以上にかさんでいるといえる。
故障率曲線(バスタブ曲線)とは
かつては、装置が故障してはじめてメンテナンスを実施する「事後保全」が主流な保全方法であったが、信頼性工学と呼ばれるシステムの信頼性を分析する手法の発展により、設備の使用経過時間と故障率を示した故障率曲線が考え出されるようになった。
設備の使用開始直後は初期不良が考えられることからある程度の故障率が見込まれるが(初期故障期、約1年)、時間とともに減衰する。やがて故障率は全期間の中で最小の値をとる期間となり(偶発故障期)、一定期間を経過すると部品の経年劣化により故障率が上昇する(摩耗故障期)。
グラフの形がバスタブのように見えることから、「バスタブ曲線」よも呼ばれる。詳細は厚生労働省「職場の安全サイト」を参照されたい。
時代遅れのTBM
さて、現在も主流な時間基準保全(TBM)であるが、前述のとおり必要以上のコストがかかっていることは事実である。
近年、ムーアの法則に基づいて半導体の性能は指数関数的に向上しており、同じ大きさの半導体センサなら時間が経つごとに価格が下がっている。また、次世代通信規格である第5世代移動通信システム(5G)も、2020年には導入される予定であるが、この規格はさまざまなセンサをインターネットにつなげることを目的とした規格でもある。
センサの価格が下がり、それらをすべてインターネットにつなげられるようになるということは、状態基準保全(CBM: Condition Based Maintenance)にシフトする準備が整ったということだ。
次世代のメンテナンス手法であるCBM
設備を構成する部品にセンサを取り付けて、それぞれの部品の状態を監視できるようにし、故障しそうな部品のみ交換したり保守したりする保全方法のことを、状態基準保全という。
アルファベット(Condition Based Maintenance)の頭文字から、CBMとも呼ばれる。
センサの高性能化、インターネットの普及、AI(人工知能)技術の発展により、時間基準保全(TBM)と同等の保全水準をTBMより大幅に低コストで実施できると考えられることから、次世代メンテナンスといわれる。
CBMを積極的に採用し、お客さまに選ばれる鉄道会社に
少子高齢化がさらに進み、鉄道を利用されるお客さまが頭打ちとなる中、保全方法の見直しは鉄道輸送のランニングコストを下げるファクターとしてインパクトが大きいのは明らかである。
インターネットを活用するため、セキュリティに十分配慮しなければならないが、働き手が減少していくと考えられる将来、積極的に導入していくべき技術の一つであると考えている。
安全は絶対確保しつつ、保守コストをできる限り削減すれば、その分別の形でお客さまにサービスを提供することができることから、とても大切な観点である。
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