この記事の目的
CBMとはCondition Based Maintenanceすなわち状態保全のことで、装置内部に各種センサを取り付け、装置の状態を常時監視できるようにした上で、それらのセンサが装置の異常、あるいは異常が発生しそうな前兆を検出した時に初めて人間が点検を行う保全手法のことです。鉄道の設備保全とCBMについては、過去のエントリでまとめていますので、合わせてご参照いただければ幸いです。
この記事では、鉄道各社のCBMの動向について、装置種類別にまとめます。業界全体の動向を把握する上でご参考になれば幸いです。
電力設備(高圧配電線、き電・電車線、配電設備(キュービクル 等))
自動張力調整装置のCBM化
自動張力調整装置は、電車線(電車のパンタグラフに電気を供給する設備です)の張力を一定に保つ装置のことです。電車線は吊架線やトロリ線など金属でできた装置ですので、気温の変化をダイレクトに受け、伸び縮みするのが特徴です。自動張力調整装置が対応できる伸び縮みの範囲を超えてしまうと、パンタグラフを破損させたり、電車線を破損させる原因になりかねません。このため、点検係員が線路を歩きながらこれらの装置の伸び縮み状況を確認していますが、センサを用いた状態監視が可能になれば、目視確認による点検は不要になります。副次的に、列車との触車災害のリスクも軽減できます。
き電線圧縮部用設備計測装置
圧縮部とは、き電線(変電所から電車に電気を送る電線のことです)の電線を交換したり継ぎ足したりする時に、接続部を接続する部分のことです。圧縮部は電線同士をくっつけるので、施工状態や外的要因(雨水の侵入による金属腐食など)で電気抵抗が上がりやすく、放っておくと電線の温度上昇により最悪断線する危険があります。計測装置といっていますが、実態はおそらく温度センサで、圧縮部の電気抵抗増加によるジュール熱の増加を温度センサで監視するものと思われます。
架線状態監視装置
トロリ線はパンタグラフと物理的に接触することで、電車に電気を供給します。このため、物理的な金属摩耗と、トロリ線とパンタグラフが離線することによる電気的摩耗により、トロリ線は少しずつですが確実に摩耗していきます。摩耗を放っておくと、やがてトロリ線が断線し、電車に電気を供給できなくなるばかりか、断線部と他の設備が接触することによる地絡事故、さらには最悪の場合感電事故を発生しかねません。この摩耗状態を監視するセンサを営業車両に組み込むのがトレンドのようです。
信号設備
転てつ機状態監視
転てつ機は列車の進路を設定する装置で、正常に動作しないまま列車が進入すると脱線事故を引き起こしかねません。このため、確実に転てつ機が動作するよう、本体内部にロックピースと呼ばれる物理的な機構が組み込まれており、この機構はミリメートルのオーダーで調整されています。数ミリずれるだけで転てつ機が動作しなくなり、列車の進入を防ぐことができるのです。このロックピースにセンサを組み込むことで、ロックピースの狂いを常時監視できるようになり、動作範囲内だが調整が必要な状態を検出した時に人間による調整を行うことで、保全にかかるコストを削減することができます。
踏切設備
踏切設備のCBMに関する資料はありませんでした。
通信設備
地上子動作確認装置
「ちじょうし」と読みます。接近してきた列車の種別(普通なのか快速なのかなど)や、ATSを動かすために軌道上に設備される装置です。トラポン(トランスポンダ)と呼ばれたりもします。地上子の健全性を常時監視するための装置だと思われます。
変電設備
ケーブル過熱検知
ケーブルに何らかの異常が発生すると、電気抵抗が増加し、ジュール熱によりケーブルが過熱されます。ケーブルが過熱されると、電線を包む被覆が科学的に変化し、匂いが発生しますが、これを検出することでケーブルの異常を検知しようとする試みです。人間には感じられない匂いも検出できれば、ケーブルに触れることなく状態保全ができるので、安全管理上も優れた方式だと思います。