空飛ぶタクシーの開発競争が話題になっている。
イノベーションは年々勢いを増し、すでにモータリゼーションの常識を覆し始めている。 鉄道業界も呑気にしてはいられない。安全を確保し安心を提供するのは絶対だが、それを都合の良い口実にして今のままのサービスを提供するだけでは、やがてお客さまに選んでもらえなくなってしまう。
そのような危機感を抱いている中、一冊の本がを見つけた。
田中靖浩氏の「米軍式人を動かすマネジメント『先の見えない戦い』を勝ち抜くD-OODA経営」という本だ。
米軍の最新の戦法を手本に、目まぐるしく価値観が変わる現代社会で生き残るためにどのように臨機応変に戦っていくか書かれていて、目からウロコというか、鉄道業界もこのように変わっていけばもっと利用者が楽しく鉄道を利用できるな、などと想像が膨んだ。そんなアイデアを何点か挙げようと思う。
五感刺激で高価格プライシングを実現する(P.184)
田中氏は書籍の中で、価格競争を展開する現代の商戦を、いたずらに体力を消耗するだけの消耗戦と評し、価格を下げることだけに一生懸命になるよりも、「お客さんに意表をついたサプライズ」を提供することで勝負をしようと論じている。
お客さまの意表をつく方法として、五感に訴える手法が効果的であるという。
五感を刺激する車内を演出する
控えめな音量でクラシック音楽を車内に流し、上品な香りのアロマを漂わせ、昼光色ではなく白熱灯のような柔らかい色の電灯を使用し、ふわふわの絨毯でお客さまをおもてなしする特急があってもよいのではないか。
「OODAにミッション・コマンドを加えて『人を動かす』」(P.151)
田中氏は書籍の中で、最低限のルールのみ定めた上で、ミッションを達成するための手段はそれぞれの現場に委ねる仕組みが、機動的に動くために重要であると説いている。
"テイラー的に能率を追求する標準化は最低限の大枠に留め、あとはミッションのもとで各自の判断を許容する。それがビジネス外線を成功させる「選択と分散」の経営です。"(P.152 l5-6)
この考え方を鉄道に採用するとすれば、例えば駅長権限を今以上に拡大させ、安全を確保することを最低限のルールとした上で、お客さまにお出かけすることを楽しんでもらうことをミッション・コマンドとすれば、地域とタイアップした企画を駅ごとに工夫して打ち出せるようになる。駅ごとの特色が色濃く出るようになれば、話題にもなるし、利用するお客さまも楽しい体験ができるようになるのではないかと思う。
技術職の働く環境も、OODA+ミッション・コマンドで改善できる
技術職なら、各メンテナンスセンターの所長権限を拡大させ、それぞれの特色を色濃くすることができれば、技術職員に選ばれるメンテナンスセンターを作ろうという雰囲気が生まれ、職場の雰囲気や働く環境の改善につながるのではないか。
安全安心で快適なサービスを提供し、お客さまに感動を与えることをミッションコマンドとして、現場の権限を拡大させることで、お客さまを楽しませるためのアイデアが現場から次々に生まれ、収益拡大の機会も増えていくと思う。
鉄道業界も、危機感を持て
運輸業という独特な業種のもつ特色なのか分からないが、保守的になりがちな面があることは、働いていて実感することが多い。
運転の安全の確保に関する省令にもあるように、安全無くして鉄道事業を営む資格はなく、安全の確保こそ絶対に守るべきものである。
しかし、安全さえ確保できればいいのではなく、それを前提として、お客さまの予想を超えるサービスを提供し続け、お客さまに感動を与え続けなければ生き残れない。
そのための手法として、現場権限を拡大したうえで、ミッションコマンドにより各自の裁量と判断で動ける仕組みを構築すべきなのは鉄道業界も例外ではない。
OODAとミッション・コマンドで臨機応変に動くためのメソッドは、鉄道業界にも十分有効な手段だと思う。