要旨
IoTを活用して運転士の健康状態をモニタリングし、安全な運行管理に役立てるシステムが開発された。運転士の体調が悪化した際の体調の変化をIoTデバイスを用いて遠方にいる運行管理者に自動で知らせ、運転士の状態確認、交代要員の手配を迅速に実施し、安全の確保に活用できる仕組みである。体調の異変を早期に検知することができれば、交代要員を迅速に手配し、運転士の交代がスムーズにできるので、お客さまへの影響を最小限にとどめることができる。運転士の心理的負担の軽減にもつながり、安全管理面で有効なシステムであることから、鉄道輸送業界でも積極的に取り入れるべき技術だと思う。
2018年6月6日(水)付の日経新聞電子版に、IoTを活用して運転士の体調異変を早期に検知し、事故の予防につなげるシステムが開発されたという記事があった(1)。
IoT:Internet of Thingsとは
IoT: Internet of Thingsとは、ありとあらゆるモノをインターネットに接続させて情報を取得できるようにし、それらのデータを分析して人間にフィードバックする仕組みのことである(2)。詳しくはこちらの記事を参照されたい。
開発されたシステムの概要
イラストを描いてみた。以下のように運転士の健康状態をモニタし、異変があれば運行管理者に通知が発信されるようになっている。
①運転士の心拍数、体温を計測
②計測データを運行管理者に3G回線を使って送信(IoTデバイス)
③計測データに異変があれば運行管理者に通知
④運行管理者→運転士に連絡し、事故を未然に防止
熱中症もそうだが(関連の過去記事)、体調不良の予兆をとらえることは簡単なことではない。普段から自身の体調管理に努め、体調の異変を感じてすぐ申告し、事故を未然に防止することはプロの運転士として大切な仕事の一つだが、IoTを活用して運転士の体調をモニタリングし、異変を知らせてくれる便利な技術があるのなら活用しない手はない。
このシステムを導入することで変化があるのは、体調異変の連絡がそれまで運転士→指令の一方通行から、運転士⇄指令の双方向になることである。このコミュニケーションの取り方の変化は大きい。自分から体調異変を申告するのはそれなりにストレスを感じると思うが、体調に異変をきたした時に指令から運転士に問いかけることで、運転士の心理的ストレスはかなり軽減されると思うのだ。
運転士の体調不良で列車が遅れる事例は珍しいことではない(3)。運転士の体調不良は事故が発生するリスクを上げるので、代わりの乗務員が手配できるまで運転を見合わせることは正しい。しかし、IoTを活用したシステムを導入されていれば、運転士の体調異変はより早期に発見され、より迅速に交代の乗務員の手配が実施され、常務交代にかかる時間が圧倒的に短縮されていたかもしれない。
電車を運転するのは人間である。人間であるから体調が悪くなることもある。だからこそ、IoTを有効に活用し、運転士を体調管理の面でサポートできる体制を整える必要がある。冒頭で紹介したようなシステムの導入は運転士の働く環境を改善できる可能性がある。安全確保の観点からも有効であると考えられ、お客さまに安全安心で快適なサービスを提供するために必要なシステムであると感じる。
参考文献
(1)日本経済新聞2018年6月6日(水)付電子版「運転士の異常、IoTで検知 福岡のエフェクト、事故防止」
(2)東洋経済ONLINE「『IoT』とは何か、今さら聞けない基本中の基本」
(3)産経ニュース2018年4月15日(日)「運転士体調不良で特急遅れ JR北海道」