技術職として鉄道業界で働きたい、でも鉄道業界にどのような技術系の仕事があって、その仕事に就きたいけれどどの会社を就活のターゲットにすればいいのか分からない人へ(そんな人がいて欲しいものです)
鉄道はBtoCのビジネスですから、電車を利用する人から頂く運賃が主な収入源となります。
では、鉄道会社の支出先はどこかというと、営業費用(電気代や消耗品費)、人件費、修繕費、設備投資などが該当します。
修繕費、設備投資は、鉄道の営業に必要な、駅などの建物、電気設備やレール、車両などを維持したり更新するために支払うお金のことをいいます。
鉄道の技術職は、この設備修繕や設備投資と密接に関わることになります。これは、鉄道と関係のあるメーカーや施工会社にとっても同じです。
鉄道会社の(電気)技術職の業務内容は?
鉄道業界を電気系技術職の視点でざっくりマッピングした図を書いてみました。
冒頭で書いたように、鉄道会社の商売はお客さまを安全に目的地まで運ぶことであり、主な収入源はお客さまからいただく運賃です。広告収入もあります。
一方、主な支出である人件費、修繕工事、設備投資工事は、技術職が直接関係してくる部分であり、メーカーや施工会社など、様々な企業が絡んでくるところでもあります。
まず、鉄道会社に技術職として就職した場合に想定される業務内容を紹介します。
保守(メンテナンス)
鉄道の電気設備が正常に機能するように、また、故障した時に速やかに対処し、営業運転への影響を最小限に抑えるため、日々行われている作業が保守(メンテナンス)です。
一口に保守といっても奥が深く、設備の異常を示すごくわずかな変化に気づくために、五感を研ぎ澄まして作業することもあります。
最近では、センサを活用して設備の状態を常時監視し、異常が検知された時に初めて対処を行うCBM(状態保全)と呼ばれる新しい手法も研究されており、日々進化を遂げています。詳しくはこの記事を見て下さい。
修繕工事の工事設計
修繕工事とは、現状の設備を維持するために行われる工事のことで、具体的には設備を構成する機器類(リレーや電線など、様々あります)を新しいものに交換する工事のことを言います。
修繕工事の工事設計は、修繕工事をどのように行うか指示し、どれくらいの金額がかかるかを計算した書類を作成する業務になります。
設備投資工事の工事設計
設備投資工事とは、新しく設備を導入する工事のことです。
ホームドアを新規に整備したり、エレベータを新規に導入したり、とにかく新しく何かを採用する工事は全て設備投資工事となります。
設備投資工事の工事設計は、新しい設備を導入する際の手順と金額を指示する書類を作成する業務です。
鉄道変電設備に関連する仕事には何があるか
変電所機器の設計
変電所機器を鉄道会社が設計することはなく、すべてメーカーが作ったものを採用する、という流れになります。
もちろん、こういう変電所を作りたいからこういうものを作ってくれ、といった指示は出しますが、そういう仕様を満たしていればあとはメーカーが最適な機器を設計することになります。
開閉器
変電所には様々な機器がありますが、実はすべての機器には機器番号と呼ばれる番号が割り振られています。開閉器は89。
スイッチのとても大きいやつと思って下さい。スイッチと少し違うのは、電流が流れている状態で開閉器を操作すると、壊れてしまうところです。このため、開閉器は後述する遮断器とセットで使われます。
遮断器
機器番号52あるいは54。交流電流を遮断する遮断器が52で、直流用が54です。
直流遮断器はHSCB(High Speed Circuit Braker、通称ハイピー)とも呼ばれます。
最大の特徴は負荷電流を遮断できることです。HSCBには励磁保持式と機械保持式というタイプがあります。小型化、遮断性能の向上、省エネ化といったところが開発の目標になっていると思われます。
変圧器
電圧を変える装置のことです。鉄道変電所は概ね特別高圧(7000V以上)の電圧で受電した電気を、電車や駅で使えるような電気に変換(変成と言います)します。この電気を変成するために必要となるのが変圧器です。
整流器
都市圏の電車は直流を採用することがほとんどです。
ところが、変電所が受電する電気は交流ですので、交流を直流に変換する必要があります。このための機器が整流器です。
といっても原理は理科の実験でやったのと同じで、とても大きなダイオードを、ブリッジ接続したものです。
整流器は大きな電流が流れることから発熱が大きい機器であり、いかに装置を冷却するか、それも環境に優しい方法で、というところが設計の要になってきます。
変電所通信設備
鉄道の変電所は大抵が遠隔監視制御を採用しているので、変電所の操作を司る中央の司令所と変電所をつなぐ通信回線が必要になります。
また、電車や電気設備に何らかの異常が発生した場合、隣接する変電所から流れる電気を同時に遮断しないと事故電流が流れ続ける場合があります。このため、隣接変電所の機器を同時に制御するための通信設備もあります。
これらの通信設備、制御装置を設計する仕事もあります。
回生電力貯蔵装置が旬
回生電力貯蔵装置を知っていますか?
ブレーキをかけるときに、モーターを発電機として使える電車があります。これを回生ブレーキと言います。このような電車は、発電しながら止まることができ環境負荷が少ないと言えるのですが、このときに発電した電気をどこかで消費しないと、ブレーキをかけることはできません。
この回生ブレーキをかけた時に発生する電気を蓄えることができるのが、回生電力貯蔵装置です。
設計の要は、電力貯蔵に何を使うかです。電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池、フライホイールなど、貯蔵方法は様々あります。自分がどの分野に興味があるかという視点で、就職先を決めるのも一つの企業選びの方法です。
東芝インフラシステムズや日立製作所、明電舎など、様々なメーカーが製作しています。
鉄道電力設備に関連する仕事には何があるか
電力設備の設計
電力設備といってもその設備は多岐にわたり、配電設備からエレベータ、エスカレータ、駅の照明、コンセント配線など様々です。
配電設備とは、変電所から電気を使う設備(駅など)に電気を送るための設備のことで、変電所から駅までの距離は一般に長いので、100Vで電気を送ると効率が大変悪くなります。
そこで、変電所から各駅には6600Vの高圧で電気を送り(これを配電と言います)、各駅に設けられたキュービクル(中に変圧器などが入っている)で100Vや200Vの電気を作って、最終的に駅などで電気を使えるようにしています。
キュービクル
キュービクルとは、遮断器、変圧器、監視装置などをパッケージにして地上に設備できるようにした設備のことです。
3大キュービクルメーカーとして、日本電気産業、河村電器産業、日東工業があります。
配電設備
正確に言えばキュービクルも配電設備なのですが、ここでは変電所からキュービクルまでの配電線関係を紹介したいと思います。
変電所からキュービクルまで電気を配電するのに、配電線というケーブル(電線)を使います。ケーブルの線種(太さや材質)はどうするのかといった点が、設計の要になります。これらを設計したい人は、鉄道会社に就職するといいでしょう。
電車線
電車線とは、電車に電気を供給するための設備のことで、き電線、吊架線(ちょうかせん)、トロリ線からなります。
電車線も日々開発がされている、古くて新しい設備です。シンプルカテナリ式、CSシンプルカテナリ式、コンパウンド式、剛体架線式、き電吊架式、…(他にもたくさん)など様々ありますが、いかにシンプルな設備で、高速で走る電車に電気を供給できるかが設計の要です。
研究に興味がある人は、鉄道・運輸機構や鉄道総合技術研究所への就職を考えるといいかもしれません。
駅舎補助電源装置が旬
駅舎補助電源装置は、思想は回生電力貯蔵装置と似ています。回生電力貯蔵装置と違うのは、回生電力を貯蔵するのではなく、駅で消費できるようにしたところです。
三菱電機が圧倒的シェアを誇ります。というか駅舎補助電源装置は三菱電機の商標です。
鉄道信号設備に関連する仕事には何があるか
信号設備の設計
信号設備というと信号機を思い浮かべると思います。その通りです。
ただ、信号機を動かすためには、列車がどこにいるのか、信号係(信号機を操作する係員)がどの信号を操作しようとしているのかを把握する必要があります。
また、それらの操作によって、例えば列車の衝突や脱線など、列車の安全が脅かされるようなことがあってはなりません。
それらを総合的に管理するシステムが「連動」と呼ばれる仕組みです。
連動装置は列車在線情報を司る軌道回路の条件によって組まれたロジックであり、ATSは信号現示を運転士に守らせるための装置、ATCは信号現示を運転席で確認できるようにした装置です。
ATOは列車を自動で運転するための装置で、厳密にいうと信号装置からは少しずれるのですが、信号の情報が欠かせないためここに載せました。
軌道回路
軌道回路はレールを電気回路として活用し、列車の在線を検出する装置のことです。
近年はCBCMやATACSなど、無線を利用した在線検知システムが研究開発されていることから軌道回路の開発研究は下火ですが、存在感は超絶です。
ATS
自動列車停止装置のことです。
赤信号にも関わらず、電車を動かそうとした時(冒進という)、自動で列車を止めるための装置です。1962年5月に発生した常磐線三河島事故を受けて前倒しで整備された経緯があり、運転士のヒューマンエラーを防止するための装置と言えます。
ATC
信号機の現示を車内(運転席)に表示し、現示速度を超えた場合は自動で制限速度まで減速する装置のことです。
新幹線は高速で移動するため、運転士が信号機の現示を確認することが困難だというところから開発されたものですが、現在は在来線含め多数の路線で採用されているシステムでもあります。
ATO
自動列車運転装置のことで、その名の通り列車を自動で運転するための装置です。
日立製作所、東芝、日本信号など、様々なメーカーが参入している分野です。設計の要は、安全を基礎にいかに乗り心地のいい運転ができるかといった点です。
鉄道通信設備に関連する仕事には何があるか
通信設備の設計
通信設備も列車の運行に欠かせません。特に近年は、きめ細かな列車運転案内のために増え続けるデータ通信を支える通信線の整備、列車無線のデジタル化など、鉄道電気設備の中で一番新陳代謝の大きい分野と言えるでしょう。
情報技術(IT)の知識を鉄道(社会)インフラに役立てたい!という志の高い学生は、この分野に挑戦してみるとやりがいがあると思います。
列車無線(デジタル化)
列車無線のデジタル化は最近急ピッチで進んでいる感があります。
音声品質の向上もさることながら、音声+αの通信ができるところが売りで、例えば司令と乗務員の連絡をテキストベースにすることでヒューマンエラーの防止に寄与できたりします。アイデアが問われる部分でもあります。
社内ネットワーク
強靭な社内ネットワークの構築は、安全管理上も重要なテーマです。
高度な情報化社会となった今、鉄道会社の驚異の一つにサイバー攻撃があります。ひとたびサイバー攻撃にかかると、鉄道網のマヒや、一番大切な鉄道輸送の安全まで脅かされる事態になりかねません。
増え続けるデータ通信を処理しながら、同時にセキュリティの対策も求められる分野です。
案内標(電光掲示板やLCD)
案内標は見ていても楽しいですよね(僕だけか)。
最近はLCDを積極的に採用している会社が多く、ここも新陳代謝の激しい分野だと思います。
新陽社、日本信号、京三製作所、大同信号など、様々なメーカーが参入しています。
自分がやりたい仕事を見つけよう
鉄道の電気技術に関わる会社は、鉄道会社本体から、メーカー、施工会社などさまざまです。
自分が鉄道というフィールドのどの部分で仕事をしてみたいのかによって、採用試験を受けるべき会社は変わっていきます。
ぜひ、この就活というこの時期に自分のやりたいこと、将来の自分の姿を想像してみて、希望の仕事ができるように頑張ってください。
この記事じゃわからない、もっと知りたいという人は、コメントや問い合わせフォームからメッセージいただければ、ご対応します。お気軽にメッセージくださいね。