なぜ読もうと思ったか
この本は、現在立命館アジア太平洋大学の学長をされている出口治明先生の本です。
日経Studyumのセミナーで初めてお会いして、人生を心から楽しまているのを感じ、一度きりの人生、僕も心から人生を楽しんでみたいと思ったのを鮮明に覚えています。
そんな人としてとても魅力的な出口先生の人生の一部分を構成しているであろう過去の偉人たちの名言とは、一体どのようなものなのか?そう思ったのがこの本を手に取った一番の理由です。
印象に残っている話をいくつか。
物事を根本から把握することの難しさ(P102)
「ラディカルであることは、物事を根本において把握することである」というマルクスの名言。ラディカルとは斬新という意味。物事を根本から把握するという行為は言葉にしてしまえば簡単ですが、それを「斬新」と表現する思考回路に、その行為が簡単そうに見えていかに難しいかということをマルクスは見抜いてたんだろうなと思います。
印象に残っているのは、出口先生がこの事実を、現代日本の投票率の低さを引き合いに出していたことです。
曰く、政治家=立派だという勝手な思い込み、すなわちアンコンシャス・バイアスによって立候補者を無意識に評価し、その結果どの候補者も相応しくないという思考回路から、投票という行為に対するモチベーションが下がった結果が、投票率の低さに現れていると言います。
「政治家になろうなどと思う人にロクな人はいない」というチャーチルの言葉も引き合いに出し、前提を何も疑わず受け入れる行為がいかに危険であるか、当たり前と思われることについて考え抜く習慣が大切であることを思い知らされる名言と例え話です。
古典に対する思い込みの間違いと古典へのモーレツな興味(P116)
僕は、古典が苦手です。読みにくいし話のイメージが全くできないし。古典に興味がありませんでした。この本の116ページを読むまでは。
まずハッとしたのは、そもそも古典は超絶シンプルに書かれていて、しかも「人間にとっての真実」が書かれている場合が多いという話。そして、だからこそ千年の時を経ても淘汰されることなく読み継がれているという事実。
アンコンシャス・バイアスがまたしても邪魔をしていました。102ページで学んだことを早速指摘された感じです。
古典=複雑という誤った前提を信じたせいで、今まで28年間古典を遠ざけてしまいました。
しかし、その過ちに今気づけてよかったとも思います。
古典に触れることで、過去に生きた人たちと会話をすることができ、彼らが学んだことを学べるかもしれない。そう思うと、古典に俄然興味が湧いてきます。まさに千年の時を超えてその魂に触れることができる。なんて素敵なんでしょう。
この本を読み終わった後、すぐに近所のリブロで岩波書店の文庫本を求めに行きました。そして、岩波書店の本を扱っていないことを知りました。大丈夫です。アマゾンに頼みます。
知識を広げるための縦横思考に目からウロコ
イブン・ハルドゥーンの「人間は本質的に無知で、獲得という手段を通じて知識を得る」という名言。知識を得ようと貪欲にならなければ、人はいつまで経っても無知のままであるという戒め。
では、どうすればたくさんの知識を獲得できるのか。出口先生は、「縦横思考」というインプット方法を実践されているそうです。これが目からうろこ。
縦軸は時間軸、横軸は空間。歴史と、自分と異なる境遇にいる人から学ぶことを先生は「縦横思考」と読んでいて、これによって物事の全体像を明確に掴めるようになると教えてくれます。
そして、これを実践する上で欠かせないのが人・本・旅。歴史上の人物とは、彼らの本を読み彼らと会話をすることで知ることができる。自分と違う境遇にいる人が何を感じながら生きているのかも、その人が本を出していれば知ることができる。そうでないなら、彼らと直接会って話を聞くことで知ることができる。
旅をすれば、自分が想像もしなかった環境で生きる人々が何を感じながら生きているかを知ることができる。
これらの体験によって、自分が生きる世界がどのようなものであるか、その世界が無数の視点によって捉えられていることを知ることができる。これは、物事を多角的に捉える一番いい手段であり、多角的な視野を持つことこそ、人生を味わい尽くす上でのヒントになる。先生はそう教えてくれました。
次に読みたい
ロサラ・マレー「死者を弔うということ」
266ページから、人生をどう生きたいかを考えるヒントが書かれています。
先生は毎年遺言状をアップデートしているそうです。それは、残された人生をどう生きたいかを考えるため。
この本を読む前に、ベンホロウィッツ著「Who you are」を読みましたが、先生のその行動は、この本で紹介されていた武士道の考え方そのものです。
武士道では、明日の命さえ保証はないということを自覚するために常に自身の死について想像することを求め、それによって自身のあるべき生き方を考えることができ、ひいては後悔のない生き方を実践することができると説きます。
先生が紹介してくれた「死者を弔うということ」という本は、人生の終わり方について、世界中の様々な考え方を紹介している本のようで、とても興味が湧きました。
様々な死についての価値観があるということは、その数だけ生きることへの価値観が存在するということ。この本を読むことで、縦横思考の横軸の知識を増やすことができそうです。
この本の一言まとめ
人・本・旅の縦横思考で知識を増やせる。そして古典は大事。