個人間で電力を取引する実験を、トヨタ自動車などが6月中旬から始めるという記事がありましたのでスクラップしておきます。5月24日付の日経新聞によれば、ブロックチェーンを用いて電力需給の情報を共有し、個人間で電力の売り買いができる実験を始めるそうです。現在運用されている電力買取制度では、個人が所有する太陽光パネルなどの発電設備が発電した電力を売ろうとした場合、電力会社に売電するしか方法がありません。この実験により個人間の電力取引ができることが実証されれば、より自由度の高い電力取引ができるようになり、コストも下がりそうです。なぜブロックチェーンを用いる必要があるのか、何ができるようになるのか、簡単にまとめておきたいと思います。
現状の制度のおさらい
現状の制度に関する仕組みは、東京電力の解説ページが参考になります。
「太陽光発電の余剰電力買取制度」と呼ばれる個人宅の太陽光パネルで発電した電力の売電制度は、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」を法的根拠として開始された制度です。
この制度は、個人宅に設置された太陽光パネルが発電した電力のうち、余剰電力を電力会社が一括して買い取り、電力会社が電気を必要とする需要家に給電する仕組みです。
個人宅が発電した電気は電力会社にしか売ることができず、その価格も経済産業大臣が定めた金額に従うしかありません。もっとも、この仕組みは太陽光発電を広く普及させるために定められた制度なので、個人宅に有利な価格設定になっているようです。
しかし本来であれば、需要家が電力をより必要としている場合は売電価格は上昇し、そうでない場合は売電価格が下がるといったように、売電価格は市場によって決められるべきであり、それこそが健全な電力売買のあり方です。
この実験により何ができるようになるのか
電気の需要と供給をIT(情報技術)によって可能にすることが、実験の目的であると考えられます。
基本的な部分を言えば、電気を必要としている需要家が何kWの電力を必要としていて、太陽光パネルを持つ供給側が何kWなら供給できますよと言い、じゃあ「30円/kWhで取引成立ね」となればいいわけで、電話でできればそれでいいわけです。
ただ実際は個人宅に設置されている太陽光パネルの規模は至って小規模であり、上記のような取引によって需要家が満足するためには、たくさんの個人とやりとりする必要が生じてきます。
そこで、このやりとりをたくさんの個人間で成立させるために、ITを用いますが、この情報は正確性が求められます。
なぜブロックチェーンを用いるのか
ブロックチェーンといえばまず思い浮かぶのが「ビットコイン」ではないでしょうか。
もともとビットコインの中核技術として誕生したブロックチェーンは、ネットワークに接続された端末が協力して計算をしながら共通の台帳を作るというのが基本的な仕組みです。
ブロックチェーンにおいてはデータの改ざんを行うことは不可能と考えられています。共通の台帳は非常に莫大な計算を行うことで築き上げられているからです。たとえば、過去の電力取引の記録を改ざんして不正に利益を上げようとした場合、現在の台帳を作るまでになされた計算を1から実施する必要があり、この計算が終わるまでに正規の台帳の新しい計算が行われるため、改ざん台帳をネットワークに接続された端末に保存させることは不可能なのです。
改ざんされた電力取引の台帳を用いれば、公正に電力の取引を行うことはできないので、データの改ざんが事実上不可能であるブロックチェーンの技術を用いることは、電力の取引上とても理にかなっているといえます。