僕の家は都心部から少し外れた場所にあるので、近くには畑が広がる場所もある。毎朝車窓から見える畑を見ながら通勤しているが、季節が変わり、畑が緑色になってきた。
高齢化、担い手不足の影響で農家の数は減少の一途を辿っているという(1)。
高度成長時代、サラリーマンと比べ農家の収入は増えず、食生活が欧米化して日本の農産物の需給バランスが崩れたことも影響し、食料自給率は先進国の中でも最低水準となってしまった。
地域で生産されたものをその地域で消費する地産地消は、食料自給率の向上に寄与するが、のみならず、地域社会の発展に重要な役割を果たす可能性が多数ある。生産者は地域の消費者ニーズに基づいて生産物を決定し、消費者は地域で生産された食料を求めることから、生産者と消費者が結びつく取り組みであり、お互いの信頼関係が構築され、より安心して食材を消費する事ができるようになる(2)。
また、地域の特産物等に関する理解が深まり、郷土料理への関心や、地域社会の歴史や文化そのものに対する理解も深まるかもしれない。
鉄道は、これらの地産地消活動を促進させる上では非常に相性の良い媒体だと思っている。沿線の郊外エリアで農業を営むお客さまと、都心部に居住しているお客さまを地産地消の観点から結びつける事ができれば、お互いにメリットを享受する事ができるのではないか。
例えば、利用者数が比較的落ち着く昼下がりの時間帯は、営業運転されているそれぞれの列車のうち1両を野菜等の運搬専用車両として割り当てる。各駅にファーマーズマーケットのスペースを作って、昼間のうちに運搬された野菜等を並べれば、仕事帰りのお客さまや駅周辺に住むお客さまが、沿線地域で生産された食物を手に取る機会が生まれる。
鉄道会社にとっても、乗車率の低い昼間の電車を有効に活用する事ができるようになる。この活動によって、地域社会に対する理解や関心が深まり、地元を好きになってくれるお客さまがさらに増え、それが新しい文化を形成するようになれば、住み良い街はさらに住み良くなる。沿線価値は極大化し、沿線人口は増え、鉄道会社の収益もまた拡大する。言ってしまえば、win-win-winの関係となると思うのだ。
沿線で生活をしているお客さまが、自分たちの暮らす街を愛し、地域社会の文化や歴史を誇りに思えるような雰囲気が醸成されたとき、その街は観光客にとってもより魅力的な街になっていると思う。沿線に住むお客さまが、そうした体験を得ることができるような社会になれば、もっと毎日が楽しくなると思う。そういう街づくりにチャレンジしてみたい。
参考文献
(1) 日本経済新聞電子版「農業と農村はどうすればもっと元気になる?」2018年5月8日
(2) 農林水産省 地産地消推進検討会中間取りまとめ-地産地消の今後の推進方向-2005年8月
2018.6.12(火)追記
日本経済新聞の2018年6月12日付電子版に、本ブログ記事と関連する記事があった。
郵便の物流網と新幹線の輸送力を組み合わせることで、その日収穫された農産物をその日のうちに東京駅で売るという取り組みだ。まさに、生産者と消費者のニーズが一致した、食の安全性向上にも寄与する素晴らしい取り組みである。こういう取り組みが鉄道事業者全体に広がれば、より魅力的な社会を作ることができると思っている。